【労災保険法】治ゆ後に傷病が再発した場合の保険給付|再発の3要件を解説

労働者災害補償保険法

問題

業務上の傷病がいったん「治ゆ」と認定された後に再発した場合、一定の要件を満たせば、再び労災保険の保険給付の対象となる。

この「再発」であると認定する要件について、次のアからエの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。

ア 当初の傷病と「再発」とする症状の発現との間に、医学的にみて相当因果関係が認められること。

イ 当初の傷病の治ゆから「再発」とする症状の発現までの期間が3年以内であること。

ウ 療養を行えば、「再発」とする症状の改善が期待できると医学的に認められること。

エ 治ゆ時の症状に比べ、「再発」時の症状が増悪していること。

答え

正しい組合せ:ア・ウ・エ

ポイント

労災保険において、いったん治ゆと認定された傷病が再発したと認められるためには、原則として次の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 当初の業務上の傷病と再発した症状との間に、医学上の相当因果関係が認められること。
  2. 治ゆ時の状態と比較して、症状が増悪していること。
  3. 療養を行うことで、症状の改善が期待できると医学的に認められること。

したがって、ア・ウ・エが正しく、イは誤りです。

再発の要件に「治ゆから3年以内」という期間制限はありません。

この記事で分かること

  • 労災保険における「治ゆ」の意味
  • 治ゆ後に傷病が再発した場合の3つの認定要件
  • 選択肢イの「3年以内」が誤りである理由
  • 再発と後遺障害の違い
  • 社労士試験で押さえておきたい判断のポイント

1.労災保険における「治ゆ」とは?

労災保険における「治ゆ」は、日常生活で使われる「完全に元の健康な状態に戻ること」とは意味が異なります。

労災保険では、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、症状の回復や改善が期待できなくなった状態を「治ゆ」といいます。一般に「症状固定」と呼ばれる状態です。

例えば、けがの治療を続けても、これ以上の症状改善が医学的に期待できないと判断された場合には、症状が残っていても治ゆと認定されることがあります。

つまり、治ゆと認定されたからといって、必ずしも傷病前の状態に完全に戻っているとは限りません。

治ゆと認定された後はどうなる?

療養(補償)等給付は、原則として傷病が治ゆするまで行われます。

治ゆ時に一定の障害が残っている場合には、その障害の程度などに応じて障害(補償)等給付の対象となることがあります。

一方、治ゆ後に再び症状が悪化し、一定の要件を満たす場合には、当初の傷病の再発として、再び療養(補償)等給付などの対象となる可能性があります。

ここで重要なのは、治ゆによって療養の必要がなくなったと判断された後でも、一定の条件を満たせば再び保険給付の対象となり得るという点です。


2.再発と認められるための3つの要件

治ゆ後に症状が再び現れたとしても、それだけで労災保険上の「再発」と認められるわけではありません。

再発と認められるためには、当初の傷病との関係や症状の変化、治療による改善の見込みなどを確認する必要があります。厚生労働省の資料では、主に次の3点が要件として示されています。

① 当初の傷病との医学上の相当因果関係があること

再発した症状と、当初の業務上または通勤による傷病との間に、医学上の相当因果関係が認められる必要があります。

単に、以前に労災事故に遭ったことがあるというだけでは足りません。

現在の症状が、当初の傷病と医学的に関連していることが重要です。

例えば、以前の業務上のけがと現在の症状との間に医学上の関連性が認められる場合には、再発の要件を満たす可能性があります。

一方、現在の症状が加齢や私病など別の原因によって生じたもので、当初の傷病との相当因果関係が認められない場合には、当初の傷病の再発とは認められないことがあります。

試験対策:再発した症状と当初の傷病との医学上の相当因果関係が必要。

② 治ゆ時と比較して症状が増悪していること

再発と認められるためには、治ゆと認定された時点の状態に比べて、再発時の症状が悪化している必要があります。

治ゆ時と同程度の症状が続いているだけでは、再発の要件を満たすとは限りません。

例えば、治ゆ時には症状が安定していたものの、その後、当初の傷病に関連する症状が明らかに悪化した場合には、この要件に該当する可能性があります。

反対に、治ゆ時と比較して症状に明らかな悪化が認められない場合には、再発とは判断されない可能性があります。

ここで比較するのは、単に過去のけがをする前の健康状態ではなく、治ゆと認定された時点の症状と、再発時の症状です。

③ 療養によって症状の改善が期待できること

再発と認められるためには、療養を行うことによって症状の改善が期待できると、医学的に認められる必要があります。

治療を行っても症状の改善が期待できない状態であれば、労災保険における治ゆの考え方との関係から、再発の要件を満たさないことがあります。

例えば、症状が悪化していても、医学的に治療による改善が期待できない場合には、この要件を満たさない可能性があります。

反対に、当初の傷病との相当因果関係があり、治ゆ時と比べて症状が悪化し、さらに療養による改善が期待できる場合には、再発と認められる可能性があります。

試験対策:症状が悪化していることに加え、治療効果が期待できることも必要。


3.選択肢ア〜エを個別に確認

今回の問題では、3つの要件を各選択肢に当てはめて判断します。

選択肢内容判定理由
ア当初の傷病と再発した症状との間に医学上の相当因果関係があること○再発の認定に必要な要件である
イ治ゆから再発までの期間が3年以内であること×再発の一般的な認定要件に「3年以内」という期間制限はない
ウ療養によって症状の改善が期待できると医学的に認められること○治療効果が期待できることが必要である
エ治ゆ時と比べて再発時の症状が増悪していること○治ゆ時の状態と比較して症状が悪化している必要がある

したがって、正しい組合せはア・ウ・エとなります。


4.なぜ「3年以内」という要件は誤りなのか?

今回の問題で特に注意したいのが、選択肢イです。

選択肢イは、当初の傷病が治ゆしてから再発するまでの期間が3年以内であることを要件としています。

しかし、再発の一般的な認定要件として、治ゆから再発までの期間を一律に3年以内とする規定はありません。

厚生労働省の資料でも、治ゆ後に数か月または数年が経過してから、当初の傷病との医学上の因果関係が認められる傷病が発症した場合について、再発の考え方が説明されています。重要なのは、経過した期間だけで判断するのではなく、医学上の相当因果関係、症状の増悪、治療効果への期待という要件を確認することです。

つまり、治ゆから3年以内であれば自動的に再発と認められるわけでも、3年を超えれば再発と認められないわけでもありません。

再発の判断では、期間だけでなく、3つの実質的な要件を押さえることが重要です。

なお、期間が長く経過している場合には、当初の傷病との医学上の相当因果関係などについて、具体的な事情に基づいた判断が必要になります。


5.再発と後遺障害の違い

再発の論点を理解するうえでは、治ゆ後に残った障害との違いも整理しておきましょう。

比較項目再発治ゆ時に残る障害
基本的な状態治ゆ後に症状が再び悪化する治ゆ時点で症状や障害が残っている
症状の変化治ゆ時と比べて増悪していることが必要治ゆ時に残存する障害が問題となる
治療効果療養による改善が期待できることが必要治療効果が期待できない状態で治ゆと判断される
主な給付との関係要件を満たせば再び療養(補償)等給付などの対象となり得る障害の程度などに応じて障害(補償)等給付の対象となり得る

労災保険では、症状が残っているという事実だけで、再発なのか、治ゆ時に残った障害なのかが決まるわけではありません。

治ゆ時の状態から症状が増悪しているか、当初の傷病との医学上の相当因果関係があるか、治療による改善が期待できるかなどを確認することが重要です。


6.社労士試験で押さえておきたいポイント

今回の問題は、再発の要件を正確に理解しているかを問うものです。

特に、次の3点を整理して覚えておきましょう。

ポイント① 当初の傷病との因果関係

再発した症状と、当初の業務上または通勤による傷病との間に、医学上の相当因果関係が必要です。

ポイント② 治ゆ時と比べて症状が悪化していること

単に症状が残っているだけではなく、治ゆ時の状態と比較して増悪していることが必要です。

ポイント③ 治療による改善が期待できること

症状が悪化していても、療養による改善が医学的に期待できなければ、再発の要件を満たさない可能性があります。

そして、今回のひっかけである「3年以内」という期間制限は、再発の一般的な認定要件ではありません。

試験で「必ず」「3年以内」などの限定的な表現が登場した場合は、その期間や条件が本当に要件として定められているのか、慎重に確認しましょう。


まとめ

労災保険では、いったん治ゆと認定された業務上の傷病であっても、その後に再発した場合には、一定の要件を満たすことで再び保険給付の対象となることがあります。

再発の認定で重要なのは、次の3つです。

  • 当初の傷病と再発した症状との間に、医学上の相当因果関係があること
  • 治ゆ時の状態と比べて、症状が増悪していること
  • 療養によって症状の改善が期待できると医学的に認められること

一方、治ゆから再発までの期間が3年以内であることは、再発の一般的な認定要件ではありません。

したがって、今回の正しい組合せはア・ウ・エです。

社労士試験では、再発の3要件をまとめて覚え、「一定期間内でなければ再発と認められない」といった、問題文に加えられた条件に惑わされないようにしましょう。

出題根拠・参考資料

  • 厚生労働省「労災保険における傷病が『治ったとき』とは」
    厚生労働省の解説ページ
  • 厚生労働省「労災医療のあらまし」
  • 神戸地方裁判所・昭和51年1月16日判決
  • 神戸地方裁判所・平成13年12月3日判決(問題文に示された出典)