【厚生年金保険法】在職老齢年金で支給停止中でも障害手当金は支給される?|社労士試験

厚生年金保険法

問題

在職老齢年金の仕組みにより支給停止が行われている老齢厚生年金を受給している65歳の者が、障害の程度を定めるべき日において障害手当金に該当する程度の障害の状態になった場合、障害手当金は支給される。

答え

×(誤り)

この肢のポイントは、老齢厚生年金が実際に支給されているかどうかではなく、その者が「年金たる保険給付の受給権者」に該当するかどうかです。

在職老齢年金によって老齢厚生年金の支給が停止されていても、老齢厚生年金の受給権そのものがなくなったわけではありません。

したがって、このケースでは厚生年金保険法第56条第1号に該当し、障害手当金は支給されません。


この問題で最も重要なポイント

今回の問題は、一見すると少しややこしく感じます。

なぜなら、

「老齢厚生年金を受給している」

という人について、

「在職老齢年金によって支給停止されている」

という事情が加えられているからです。

ここで、

「年金が支給されていないなら、年金の受給権者ではないのでは?」

と考えてしまうと、誤った判断につながります。

しかし、「支給停止」と「受給権がないこと」は同じではありません。

ここを区別することが、この問題を解くうえでの最大のポイントです。


「支給停止」と「受給権の消滅」は別物

まず、言葉を整理しておきましょう。

支給停止

本来は受給できる年金について、法律上の一定の事情によって、年金の支給が止められている状態です。

受給権の消滅

年金を受ける権利そのものがなくなることです。

この2つは同じではありません。

今回のケースでは、在職老齢年金によって老齢厚生年金の支給が停止されています。

日本年金機構も、老齢厚生年金の受給権者が厚生年金保険の被保険者である場合などに、一定の条件によって年金額の一部または全部が支給停止となる仕組みを説明しています。

つまり、

在職老齢年金による支給停止=老齢厚生年金の受給権がなくなる

ではありません。

今回の問題では、この点が非常に重要です。


なぜ障害手当金が支給されないのか?

ここで厚生年金保険法第56条を確認してみましょう。

第56条は、障害の程度を定めるべき日において一定の者に該当する場合、障害手当金を支給しないとしています。

その第1号が、

年金たる保険給付の受給権者

です。

今回のケースを当てはめると、

① 老齢厚生年金の受給権がある
↓
② 在職老齢年金によって、その老齢厚生年金が支給停止されている
↓
③ しかし、受給権そのものが消滅したわけではない
↓
④ 「年金たる保険給付の受給権者」に該当する
↓
⑤ 障害手当金は支給されない

という流れになります。

ここまで整理すると、問題文の「支給される」が誤りであることが分かりやすくなります。


そもそも障害手当金とは?

ここで、障害手当金そのものについても確認しておきましょう。

障害手当金は、障害厚生年金とは異なり、年金として継続的に支給されるものではなく、一時金として支給される給付です。

厚生年金保険法第55条では、一定の要件を満たす場合に障害手当金が支給されることを定めています。具体的には、疾病または負傷について初診日に被保険者であった者が、初診日から5年を経過する日までの間に、その傷病が治った日において政令で定める程度の障害状態にある場合が基本となります。

したがって、障害手当金は、

「障害状態になれば誰でも受け取れる一時金」

というわけではありません。

そもそもの支給要件を満たしたうえで、さらに第56条による支給制限に該当しないことも必要になります。

ここが今回の問題につながります。


障害手当金は「障害状態なら必ず支給」ではない

試験では、障害手当金について、

障害の程度が一定以上なら支給される

というところだけを覚えていると、今回のような問題で引っかかる可能性があります。

実際には、

障害手当金の支給要件を満たしているか

だけではなく、

厚生年金保険法第56条による支給制限に該当しないか

も確認する必要があります。

イメージとしては、

支給要件を確認

↓

さらに第56条の「支給しない場合」を確認

↓

両方をクリアして、障害手当金の支給につながる

と整理すると覚えやすいでしょう。


厚生年金保険法第56条の「支給しない場合」

第56条では、障害手当金を支給しないケースとして、大きく3つのグループが規定されています。

① 年金たる保険給付の受給権者

今回の問題で問われている部分です。

厚生年金保険法による年金たる保険給付の受給権者は、原則として障害手当金が支給されません。

ただし、障害厚生年金の受給権者については、最後に障害状態に該当しなくなった日から起算して、障害状態に該当することなく3年を経過した者で、現在も障害状態に該当しない者について、条文上の除外があります。

ここは単純に、

「年金の受給権者なら全員絶対にダメ」

と覚えてしまわないよう注意が必要です。


② 国民年金法による年金たる給付の受給権者

国民年金法による年金たる給付の受給権者についても、原則として障害手当金は支給されません。

こちらも障害基礎年金の受給権者について一定の例外が規定されています。

したがって、第56条を勉強するときは、

厚生年金だけでなく、国民年金の年金給付との関係も確認する

ことが大切です。


③ 他の法律による障害補償等を受ける権利を有する者

さらに、その傷病について、

  • 国家公務員災害補償法
  • 地方公務員災害補償法等
  • 公立学校の学校医等の公務災害補償に関する法律
  • 労働基準法
  • 労働者災害補償保険法
  • 船員保険法

などによる障害補償等を受ける権利を有する場合も、障害手当金は支給されません。

この部分は、**「同じ傷病について、別の制度から障害に対する給付を受ける権利がある場合」**という観点で整理すると理解しやすいです。


今回の問題を具体例で考える

では、問題文の状況を簡単なケースに置き換えてみます。

ケース

65歳のAさんは、老齢厚生年金の受給権者です。

現在も働いているため、在職老齢年金の仕組みによって、老齢厚生年金の一部が支給停止されています。

その後、Aさんが障害手当金の対象となる程度の障害状態になりました。

この場合、

「年金は実際には支給されていないから、障害手当金を受け取れる」

と考えてはいけません。

Aさんは、

老齢厚生年金の受給権者

だからです。

在職老齢年金によって支給が停止されていることは、厚生年金保険法第56条第1号の「年金たる保険給付の受給権者」に該当することを否定する事情にはなりません。

したがって、原則として障害手当金は支給されません。


この問題の「ひっかけ」を見抜く

今回の問題文で特に注意したいのが、

「在職老齢年金の仕組みにより支給停止が行われている」

という部分です。

これは、受験生に

「年金をもらっていない=年金受給権者ではない」

と思わせるためのひっかけとして読むことができます。

もちろん、実際の試験では問題文に含まれる事情をすべて意味のない情報だと考えてはいけません。

ただし今回については、判断の軸はあくまで第56条第1号の、

「年金たる保険給付の受給権者」

という文言です。

したがって、

「支給されているか」ではなく「受給権があるか」

に視点を切り替えることが重要です。


「支給停止」と「受給権」をセットで覚える

この問題から覚えておきたいのは、単に、

障害手当金 → 56条 → 支給されない

という暗記だけではありません。

次のように整理しておくと、類題にも対応しやすくなります。

状態考え方
年金を受給している年金たる保険給付の受給権者に該当
在職老齢年金で支給停止されている受給権がなくなったわけではない
受給権がある第56条1号との関係を確認
障害手当金の障害程度に該当それだけで直ちに支給とはならない
第56条の支給制限に該当障害手当金は支給されない

この表の中でも、試験で特に覚えておきたいのが、

支給停止と受給権の消滅は別

という部分です。


条文から逆算して問題を解く

社労士試験では、今回のように問題文の文章全体を読んで判断するより、根拠条文のキーワードを拾う方が確実な場合があります。

今回なら、

問題文

「在職老齢年金によって老齢厚生年金が支給停止」

↓

条文上の判断

「年金たる保険給付の受給権者か?」

↓

答え

「受給権者である」

↓

第56条第1号

「障害手当金を支給しない」

↓

結論

×

という流れです。

このように、問題文をそのまま丸暗記するのではなく、

「問題文のどの部分が、条文のどの言葉に対応しているのか」

まで確認しておくと、数字や表現を変えられた場合にも対応しやすくなります。


試験対策|ここは3段階で覚える

今回の論点は、次の3段階で整理しておくのがおすすめです。

STEP1 障害手当金の支給要件

障害手当金は、一定の傷病・初診日・障害状態などの要件を満たした場合に支給されます。

STEP2 第56条の支給制限

支給要件を満たしていても、第56条に該当すれば障害手当金は支給されません。

STEP3 今回のひっかけ

「在職老齢年金で支給停止中」という事情があっても、

受給権者であることには変わりない

ため、第56条第1号の対象になります。

この3段階で考えれば、今回の問題はかなり解きやすくなります。


まとめ

今回の肢は**×(誤り)**です。

在職老齢年金によって老齢厚生年金が支給停止されていても、老齢厚生年金の受給権そのものがなくなったわけではありません。

厚生年金保険法第56条第1号では、障害の程度を定めるべき日において**「年金たる保険給付の受給権者」**である者には、原則として障害手当金を支給しないとされています。

したがって、今回のケースでは障害手当金は支給されません。

この問題から覚えておきたいこと

在職老齢年金による支給停止 ≠ 老齢厚生年金の受給権の消滅

そして、

障害手当金は、支給要件を満たしていても、第56条の支給制限に該当すれば支給されない。

この2点を押さえておきましょう。

出題根拠:厚生年金保険法第56条第1号